高齢化する地方都市に求められる補聴器診療に特化した医院と、同時に開業する薬局の計画。
地域医療に対して明確な目標を持ち、並走できるメンバーを集めるところから場所づくりを進める姿勢に共感し、建物も医院単体ではなく、まわりの環境やかかわり方を含めた全体の関係を意識して計画を進めた。
医院と薬局はそれぞれ独立しながらも、木造の勾配屋根や金属の縦ハゼの陰影、杉板の素材のイメージが互いに関係しあう。敷地は交通量の多い真西の大通りに面することから、建物を南北に開くことで中庭を共有し、全体として豊かなまちを構成することを目指した。
中庭を介してそれぞれの待合の雰囲気を感じられる距離感としたことで、患者さんが薬局の混み具合をうかがったり、お互いに業務を連携することにも寄与している。



診察室は専門の機器や画面が並び、診察や機器のメンテナンスが容易なレイアウトや配線を検討しつつ、ラワンの壁や南面の大開口によって明るく温かいイメージとなるように配慮している。

医院の防音室は患者さんと技師が入る大きさで2室用意している。木造で専門医療の基準に応えるために、交通騒音の影響を受けにくい地盤改良や配置計画、専用の空調、上部に床をつくらないなど、外部の騒音を極力低減するように計画した。
補聴器相談のための個室や防音室前のマルチスペースは、感染症の流行時には隔離室や個室ブースとして活用する、将来対応でCTを増設するなど、今後の活用方法の変化にも柔軟に対応できるレイアウトである。


薬局は受付・待合、調剤室、投薬テーブルと求められる機能がシンプルなことから、整形のプランとして、単純な形態のみで外観から内部までの全体の雰囲気を決定することを考えて宝形屋根とした。

登り梁は四周の梁と小部屋によって完全に閉じた形状とすることで力学的にも単純な圧縮材となり、頂部を非常にシンプルに納めることができた。こうして屋根を支える梁がそのまま内装になり、おおらかな居場所をつくっている。
中庭の風景や大きな気積に包まれたイメージによって、待ち時間を少しでも穏やかに過ごせる場所になればと思う。


