まちに開かれた「ごちゃまぜ」の拠点施設
岩沼市の「生涯活躍のまち」構想の核となる、地域の拠点施設。
高齢者デイサービスや障がい者生活介護、児童発達支援といった福祉サービスに加え、地域に開かれた温泉、ウェルネス、食事処、さらに認可保育園、子育て支援センターも備える集約的規模を有する複合施設である。温泉、ウェルネス、食事処が障がい者の就労支援事業所となっていることも特徴。
子どもから高齢者まで、障がいの有無や国籍によらない地域の「ごちゃまぜ」の場をつくるプロジェクトである。
復興から創生へ
岩沼市は東日本大震災の津波で甚大な被害を受けた地域の一つであるが、東北の中でもいち早く復興を進めてきた街として知られる。施主である青年海外協力協会(JOCA)は震災の発生直後からこのまちの復興に尽力してきた。
震災復興の取り組みから地方創生につなげていくという考えから、岩沼市の「生涯活躍のまち」構想の一つとしてこのプロジェクトがスタートしていった。
囲う形が関係をつくる
福祉サービスから地域の交流施設、保育園などの多様な用途は全て中庭を囲むようにコの字型に配置している。
中庭に面した建具の多くは木製の掃き出し窓で、活動が外にはみ出し、視線が相互に通ることで出会い・交流を生むことを企図している。
中庭は保育園の園庭でもあるが、曜日・時間帯によって解放し、地域の子どもたちの遊び場にもなる。
こどもたちがつなぐ関係
定員90名の認可保育園が様々な機能と同居していることはこの施設の大きな特徴の一つである。
子どもたちの遊ぶ姿や声が施設全体を元気にし、ここを訪れる人たちをつなぐ役割を果たしてくれている。
保育室は中庭に向かって開き、高齢者デイ・生活介護と向かい合うように配置している。
遊戯室は吹き抜けでウェルネスとつなげ、ヨガやダンスなどのウェルネスの活動で遊戯室を利用することも可能な計画としている。
また子育て支援センター、児童発達支援と保育園の職員室、JOCAのオフィスを一体の空間としている。子どもも保育士もスタッフも「ごちゃまぜ」の一員となって混ざり合い、関係をつくることを目指している。
地域の人が気軽に立ち寄る食事処「やぶ亀」
2階の中央に配置した食事処は地域住民のコミュニケーションの場として重要な役割を果たす。
客席は畳敷きのテーブル席やカウンター、板張りの小上がりがあり、利用者の気分や使い方に合わせて居場所を選ぶことができるように配慮している。
食事だけでなく入浴後の休憩や打合せ等にも使用することができる。
また、障がい者の就労支援の場でもあり、キッチンやホールでそれぞれの個性を生かしながら仕事にチャレンジしている。
岩と檜の温泉
温泉は食事処と並んで、地域住民のコミュニケーションを生む重要な場として位置付けている。
阿武隈川の石を使用した岩風呂と、檜風呂の2種類の浴室があり、日替わりで男女を入れ替える仕組みとなっている。
動線の複層化
廊下は様々な目的を持って(または持たずに)ここを訪れる人たちの出会いの場と捉えている。動線を複層化させることで出会いのきっかけを生むことを意図している。
スタッフが常駐するオープンカウンターを隣接させていることもコミュニケーションを生む仕掛けである。
地域密着型ウェルネス
地域の健康増進施設であるウェルネス。子どもから高齢者、障がいを持つ人もだれもが利用することが出来る。中庭に面した開放的な空間とし、保育園の遊戯室と吹き抜けを介してつなげている。
動線上に当たり前にある高齢者デイ・生活介護
メインエントランスから各機能に至る動線上に沿って高齢者デイサービス、障がい者生活介護を配置している。来訪者は自然な形でこの部屋での活動を見ることができ、交流を促す。
夜間は食事処の宴会場としての機能も持つ。
広がるデッキテラス
西側に向けてコの字に開かれたデッキテラスを設けており、隣接する線路を行き交う電車や夕陽を眺めることができる。
中庭に向けて開かれたウェルネスや食事処から直接デッキテラスにでることができ、各機能をつなぐ役割を果たす。
子どもたちの遊び場になったり、夏季にはビアガーデンとしても利用される。
JOCAは全国で「ごちゃまぜ」のまちづくりを進めており、全国で6つの拠点でプロジェクトが進行中である。その中でもJOCA東北は最大規模の事業所となる。
「岩沼生涯協力隊」というボランティア組織も発足し、地域の人々が主体的にまちづくりに取り組む活動が生まれている。
JOCA東北が地域の拠点となり、様々な人々を巻き込んで、つながりと関係の中からそれぞれが自分の役割を持つことができるまちづくりが展開されていくことを期待している。