輪島市は奥能登の中心ではあるが、少子化や高齢化、人口減少という地方共通の問題を抱えている。更に2007年の能登半島地震により多くの家屋が倒壊したことで空き地が増え、裏通りでは倒壊に至らないまでも老朽化した家屋が散見される。私たちの調査の結果、中心部の半径700m圏内に空き家が120件、空き地が25件存在し、地域コミュニティの衰退が明らかであった。
輪島KABULETは「あるものを活かす」をコンセプトに輪島市中心部の空き家・空き地を活用して既存の住宅地の中に地域交流施設や福祉施設を分散配置することで、もともと街が備えていた地域コミュニティを再生しようとする試みである。
新しい風景を創るのではなく、永年ひとびとが慣れ親しんできた風景を継承することを意識し、スケール、形態、材質感共に既存のまちなみと調和し親しみを感じる「つなぎの景観」の創出を目指した。
拠点施設・高齢者デイサービス
拠点施設は大正5年、平成3年に建てられた2件の空き家を利用して、周囲の街並みにあわせた増築を行うことで住宅街に馴染む建物としている。
1階には温泉、食事処を計画。近隣住民は無料で温泉を利用でき、地域住民が自然に集まり交流が生まれる場所になることを期待している。2階には生活介護、放課後等デイサービスと住民自治室があり、地域住民の集会や宴会、近くの小中学生が宿題をするスペースなどとして使われている。
拠点施設と高齢者デイサービスに挟まれた空き地は、能登で一般的な樹種の植栽とすることで里山をイメージしたアプローチとして活用した。
輪島KABULET GOTCHA!WELLNESS WAJIMA
子どもから高齢者、障害のある方も誰もが通うことのできる地域の健康増進施設。筋力トレーニングだけでなく、地域住民の健康面のサポートを目的としている。 輪島KABULETのメイン通りに沿って拠点施設、高齢者デイと対面して配置し、中庭を取り囲む構成とした。
建物は昭和44年以前に建築された空き家を現行法規に適合するよう全面的に改修し、隣の空き地を利用して鉄骨造を増築した。既存部分は受付、更衣室、事務室とし、増築部分を運動エリアとしている。
Cafe KABULET
昭和34年建築の空き家をママカフェとして改修した。建築年代不明の部分を解体し、現行法規に適合させた。建物は、この地域特有の木材である能登ヒバをテーマに計画している。地元の材木業者の協力のもと端材や節材を利用し、フローリングから造作家具、階段に至るまで多くが能登ヒバで構成された空間とした。
カフェは調理から片付け、支払いまですべてセルフサービスとなっている。スタッフに使い方を習いながら、キッチンスペースで親子いっしょにピザやオムライスなどを作って食べることができる。また、日中は就労支援の作業室として活用している。
また本プロジェクトの多くの場所は障がい者の就労場所として重層的に活用しており、子どもから高齢者まで障害、疾病の有無に関わらず誰もが自然に交流が生まれる「ごちゃまぜ」の空間の創出をねらっている。こうしてあるものを活かし、風景や暮らしの痕跡を継承した生涯活躍の街(日本版CCRC)を実現している。
少子化や高齢化は地方共通の問題であり、人口減少による空き家、空き地の増加についても全国的な課題となっている。この計画は、同じ問題を抱えた多くの地域にとって地方創生の参考になるのではないかと考えている。